結婚が武器になるケース。三〇〜二五歳という年齢は働く女にとって大きな壁である。この壁を前にして不安から結婚に逃避する若い世代の女たちについてはさきに述べた通りである。しかし一方で三〇歳の壁を転身によってのりこえる女たちもいる。壁をのりこえるのには、明確な職業意識が必要である。八三年の若林らによる「専攻分野別にみた女子学生の職業興味」調査をみると、教育、保育、医療、看護のように特定の職業と結びつきやすい専攻分野の学生は文学、語学、人間関係など人文関係の学生にくらべて職業人となるための心理的準備の度合が高く、働きつづける意欲も高いことがわかっている。大学や短大で専攻が職業と結びついている場合は、学生の職業興味は明確だが、人文社会系の学生は一般に職業興味の焦点がしぼられておらず、自分が将来どのような仕事につきたいかというビジョンが明確でないといえる。つまり、明確なビジョンをもって自分がどう生きていきたいかという進路をもつ場合には、壁があっても途中で逃避せず、それをのりこえていくことができるといえそうだ。A子さんは現在三三歳。英語が得意で(子どもの頃に海外に住んでいた)、語学系の大学に進み、航空会社に就職、航空会社では年々熟年屑の女性や管理職の女性も増えてはいるか、体力的にもストレスが大きいため二九歳で退社し結婚。三〇歳で出産。出産後すぐに英語力のある女性を登録して子どもの家庭教師の派遣会社を設立し、家庭と両立している。B子さんは三六歳。コンピューター関連企業につとめていたが、三二歳で退社し結婚。一年後に出産、三五歳で子ども川品のリサイクルブティックを開き家庭と両立している。彼女たちは、就職し仕事で成功した女性、である。しかし三〇歳の壁があり、以後は男女間の賃金格差がでてくることもよく知っているのだ。だからこそ。それまで会社で学んだことを生かして自分で小さいながら事業を始めたのである。彼女たちにとって結婚は転身のための武器となっている。その理由の一つは、事業を始めるにあたって、結婚により「女同士のやっかみ」を消し去ることが可能になるからである。事業を行なう女性はしばしば同性から、「あなたはいいわね。結婚してないから仕事ができるのよ」と言われるものだ。言いたい人には言わせておけ、などと言ってはいられない。既婚女性を敵にまわしたら商売は成立しないのだ。既婚女性の仲間の輪に入ることによって女同士のやっかみから解放されるには結婚が武器になる。結婚が武器という第二の理由は、男の視線対策である。男はシングルで働きつづける女には抵抗感をもっている。結婚に関して男は大変に保守的であり、五七パーセントの男が生涯独身はよくないと思っているのだ(九ヒ年出生動向基本訓告)。またアメリカの社会学者コマロフスキーの調査(八四年)でも、アメリカの男子大学生の3分の1は、ある分野でたくさんの知識をもった男性に出会ってもちょっとした台威を感じるだけだが、それが女性だったら敵意を抱くだろうと回答している。つまりシングルで仕事ができるバリバリの女性を、男性は敵と認識する可能性が高いのである。ゆえに「結姶」はそうしたコンサバ男の敵意を緩和する効果をもっているといえる。シングルで事業をおこす女性を男は敵とみなすけれど、結婚して事業をおこす女性に関しては、「彼女の亭主はきっとロクな料理も食べていないんだろう」などと言ってうっぷんを晴らし、やや矛先を和らげることが多いであろう。というのはさきのコマロフスキーの調査の中で、男性の約半数は、主婦となることだけを唯一の目標とする女性とは結婚したくないが、結婚して子どもが生まれたら女性は家庭に入ってはしいと思っているからである。結婚後も働く女は彼らにとって敵というより、男として許せない存在というだけである。結婚が武器になる理由の第三は、出産により、さらに周囲から認知される度合いが大きくなるということだ。とくに女同士の仲間意識は出産により強固になるといえる。シングルで仕事をする女性に「あなたは結婚してないから仕事が自由にできるのよ」という言葉を発する子どもをもつ既婚女性は、次に「ご主人の理解があるから仕事ができていいわね。うちなんてちっとも理解がなくて」と声をかけ、さらに「お子さんはまだ?お仕事ができるのは子どもがいないからよ。子どもがいると自分の時間なんかないわ」などと言うものだ。こうして子どものいない女は、既婚、出産経験者の女性たちの場からはずれていく。妊娠・出産を経験するということは、女性の同性同志の間で「生理的共感」といっていいほどの一体感を成立させるものである。筆者も妊娠中に知人の美容師の女性から、「わあ、おめでたなんて私たちと同じ女なのね」と言葉をかけられ驚いたことがある。こうした「生理的共感」からスポイルされることは、たしかに仕事がしづらく、暮らしにくいものなのだ。
[関連情報]
表参道の教会挙式
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